初代のリーダーが率いる、世界最長のビッグ・バンド、原信夫とシャープス＆フラッツが今年で結成50周年を迎える。
　記念のコンサートを目前に、リーダー原信夫氏(74)に現在の心境とジャズ人生一筋の思い出を語ってもらった。

　戦後日本ジャズの黎明期から現在まで、ビッグバンドを率いて半世紀。
　いまも現役として活躍しているビッグバンドのリーダーとしては世界最高齢だ。
　「何か意識しないうちに50年が経っちゃったね。今まで一度も自分の歳を意識したことがなかったから」
　血色のいい、つやつやの頬を緩ませる。
　「僕はジャズの時流にちょうど乗ることができたんですよ」と言う。
　戦後、進駐軍のキャンプでの慰問バンドとしてジャズ人生を始め、１９５１年にはビッグバンド、シャープス＆フラッツを10人編成で結成した。
　「僕らは黒人専用のクラブで演奏していましたから、ディジー・ガレスピーなど後のビー・バップなどを作っていく先端のジャズにいち早く触れることができたのが幸運でした」
　将校クラスのクラブでは白人のスイング・ジャズが全盛を極めていた時期に、ジューク・ボックスから流れてくる先鋭的なモダンジャズを耳でコピーし、必死に勉強していたと言う。
　「黒人たちのジャズを聞く姿勢はすごかったですよ。しきりに『シャープ、メーン！』と叱ってくる。それがバンド名の由来ですよ」（笑い）
　江利チエミの「テネシー・ワルツ」、美空ひばりの「真っ赤な太陽」のヒットをバックで支えたのも、シャープス＆フラッツだった。ＮＨＫ紅白歌合戦のバックを勤めた時期も。
　「でも、やっぱり本音はジャズをやりたかったですね」
　1967年、美空ひばりのステージをキャンセルしてニュー・ポート・ジャズ・フェスティバルの桧舞台に立った。「ひばりさんからは残念がられたけど」世界的なビッグバンドの名声を勲章に帰国することができた。
　「ジャズって若いうちは独り善がりになりがちだけど、お客さんを意識しなくてはいけません。それと同時にいいものは何かという意識を忘れないこと。最近の若手のジャズメンはいいですよ。小曽根真くんは別格にいい。若手の人たちに期待しています。いまや、ジャズは世界の音楽なのですから」
　４月８日には、Ｂｕｎｋａｍｕｒａオーチャードホールで、50周年記念リサイタルを開く。
　「今回のためにベニー・ゴルソンがシャープのために新曲２曲を書き下ろしてくれました。クインシー・ジョーンズにも来いって声をかけています。彼とは40年来の親友なんですよ」
　ゲストには高橋真梨子、和太鼓グループの天邪鬼が出演する。
　「今回はアカデミックに少し気張って気楽にがテーマ。いい音楽をこれからも続けますよ。その新しいスタートだと思っています」
　ジャズ界の至宝は、まだまだ輝きつづける。