| ◆プロフィル◆ ●ミッシェル・カミロ。１９５４年４月４日、サントドミンゴ生まれ。音楽一家に生まれ９歳でピアノ始める。１９７９年、ニューヨークに移住し、ジュリアード音楽学校でクラシックを学ぶ。これまで、16回ドミニカ共和国の国立交響楽団で演奏し、１９８５年にアルバム「叙事詩」をリリース。グラミー賞、エミー賞を獲得している。 ●トマティート。１９５８年のスペイン生まれ。フラメンコギタリストのニーニョ・ミゲルの甥で、生粋のヒターノの血を引くギタリスト。子供時代から演奏家として活躍し、天才歌手のカマロン・デ・ラ・イスラの楽団で一躍脚光を浴びた。１９８７年「La leyenda del tiempo」でソロデビュー。現在、最もモダンなフラメンコ奏法を得意とするギタリストのひとり。 |
◆こぼれ話◆ とにかく、気さくなふたり。終始にこやかに互いの話をしてくれた。圧巻だったのは、ミッシェルが私の指の爪を見て、君もギターを弾くのかい？ と聞いてきたこと。すかさず、トマティートが自分のギター（写真）を私に指し出し、弾いてみなよと言う。大抵のミュージシャンは自分の楽器を持たせたりしないものだが、そんなことお構いなしに、半ば無理やり弾かされた。仕方ないので、稚拙な小生のフラメンコ（ソレア）の一節を弾くと、それはそれは喜ぶふたりだった。世界のトマティートの目の前でギターを弾かされたライターは、たぶん私だけ？そのお礼に弾いてくれたのが、トマティートのジャズギターだった。 |
（2000.11.01東京中日スポーツ新聞・ミュージックＴＯＤＡＹ掲載）
ジャズピアニストのミッシェル・カミロとフラメンコギタリストのトマティートが先頃ブルーノート東京での公演のために来日した。
ジャズとフラメンコの融合という歴史に残る離れ業を見事に成功させた二人に、共演までの経緯とジャンルを超えることができた秘密を聞いた。
これまで、ジャズとフラメンコの共演は天才フラメンコギタリストのパコ・デ・ルシアとジャズピアニストのチック・コリアの共演などで実現されてきたが、コード進行で展開されるジャズと変則12拍子で進行するフラメンコの、それぞれの音楽スタイルの違いから、融合は困難を極めていた。
しかし、今回のミッシェル・カミロとトマティートの共演は、その壁を完全に打ち破った歴史的な公演になった。
「僕らが初めて出会ったのは８年前。レコーディグ中のカミロを僕が訪ねていったんだ。その時の彼の陣頭指揮ぶりが楽しくて、すぐに友人になったんだ」とトマティート懐かしげに言う。
意気投合した二人の初共演はそれから５年後、バルセロナで開催されたジャズフェスティバルでゲスト出演した二人が急きょステージに立つことになった。
「その時は、まだ打ち合わせもなく、ぶっつけ本番で今のような音楽ではなかったけど、それでも異常なほどの反応があった。それが、そもそも共演しようと思い立ったきっかけでもあるね」（ミッシェル）
とはいえ、お互いの音楽スタイルの歩み寄りはどのように行われたのか、実に気になる。
「僕は元々ジャズが好きで、ニューヨークではジョージ・ベンソンの楽屋でジャズの曲を弾いて聞かせたことがあるくらい。その時の彼の顔ときたら、目を丸くして驚いていたよ」（トマティート）と、打ち明けた。
実際、インタビュー後、何曲かのスタンダードを目の前で見事に弾いてくれたのは驚愕した。
「はじめは、どうゆう風に弾くのか分からなかったけど、勉強したのさ」と、サラリと言い切る。
一方のミッシェルも、「フラメンコの12拍子を頭に叩き込むことに苦労したけど、もっと重要なのはお互いが尊敬し愛情を持って演奏すること。僕らは音楽で会話しているのさ」
東京の公演では、その言葉どおり、演奏中の二人の目線はいつもお互いの目を見つめあったまま早弾きのユニゾンもぴったりと合い、超絶的な技法も難なくこなす。
「ジャズもフラメンコも、常に新しく発展して生きている音楽。そのことを伝えることが共演しているテーマでもあるんだ」（ミッシェル）
ピアノとギター二台だけによる共演は、しばしば楽器の音量の差からも共演者同士がぶつかり合ってしまう。それを感じさせないのも、二人の信頼関係の厚さを物語っている。
20年前、雨の田園調布コロシアムで共演したパコとチックのステージを引き合いに出し、まるでケンカをしているようだったと言うと、
「パコは父親のような存在で、ジャズへの扉を開けてくれた偉大な音楽家で、チックもフラメンコを愛してくれる音楽家だ。でも、彼らの場合はイベント的な共演で、僕らが一緒にやっている事とは根本的に気持ちの上で違う。それが、成功することが出来た最大の要因だと思うよ」（トマティート）
彼らが共演した新作「ＳＰＡＩＮ」は、アメリカのラテン音楽業界が制定するラテングラミー賞にも選出された。
（小林泰介）
