完成した新作「万葉集オペラ 二上挽歌編」は東京都の文化事業の一環として東京文化会館と指揮者の大友直人さん（５３）からの作曲依頼で昨年完成し上演した「同 明日香風編」の続編にあたる作品だ。
前作に続き俳人の黛まどかさん（４９）が続編の台本を担当。大津皇子（おおつのみこ）と大伯皇女（おおくのひめみこ）の禁断の姉弟愛。そして叔母の持統天皇の子、草壁皇子（くさかべのみこ）との陰謀渦巻く勢力争いで破れた大津皇子の凄惨な死が官能的かつ独特の視点と厳選された言葉で綴られている。
大震災発生時、千住さんはちょうど新作「二上挽歌編」の作曲作業の真っ最中だった。期せずして千年に一度という未曾有の災害と原発事故といった国家的な危機が続く中、万葉集を代表する悲劇が作られた。
「震災で大切な人々を亡くした多くの被災者の方々の悲しみ、直面した日本の危機と万葉の物語が重なり万感の思いでした。今僕がこのテーマを書かないでどうするんだと、私の作曲家としての技術を全て注ぎ込みました」と振り返る。
その作品は震災から３カ月後、６月４、５日の両日「明日香風編」（２０１１改訂版）と共に東京文化会館小ホールで大友直人さん指揮により演奏会形式で初演された。１４人編成のオーケストラ、ソプラノ・小林沙羅、メゾソプラノ・富岡朋子、テノール・中嶋克彦、バリトン・和田ひできの各パートのソリストとコーラス・二期会合唱団が参加。沈痛なニュースが続く中で日本復興を願う演奏会は好評を博し、２０１３年１月には同指揮による東京交響楽団のグランドオペラとして東京での再演が早々に決定した。
「この作品は誰でも簡単に演奏できるように作りました。グランドオペラから、最少２７人まで、さまざまな規模で上演可能です。生演奏で音響も節電になり、天気が良ければ野外でもできます。興味を持っていただけたアマチュアを含め全国各地のオーケストラや自治体、劇場関係者がおられましたら、私自ら出向きすぐに資料をお届けします」
作曲家人生でここまでするのは初めての経験だそうだ。
（問）千住明事務所℡０３（５７８６）０３６６。