宇崎竜童

リーダーが訊く！
あんた、オレの何なのサ？

第1回ゲスト
　阿木燿子さん

宇崎　昨日、あなたの連載を初めて読んだんですよ。まず、どこでこうゆうことを観察しているんだろう、という質問にお答えしていただきたいんですけど（笑）
阿木　ウフフッ、まあ私は結構ひとりで出歩いているというか、電車にも地下鉄にも乗るし、タクシーにも乗るし。
宇崎　食べ物屋さんに一人でも平気で入るものね。
阿木　そうなのね。居酒屋であろうが、焼鳥屋であろうが平気で入って、普通の生活をすることで、「ああ、今の若い人たちはこういう会話をしているんだな」、とか話題など何気なく観察しているみたい。
宇崎　あなたは、街の中に平気で入っていけるんだよね。オレはできないんだよ、一人で飯を食うなんてね。それとね、新しいマンションのオープンルームが目に入ると、買いもしないのに必ず入るっていうのは、あれ、どういうつもり？（笑）
阿木　趣味なの。まったく買う気もないのにね。入っていって、さも買いそうに「ちょっとお台所が狭いですね…」なんて言ってね、オホホホ。
宇崎　それは何でさ？
阿木　すごく興味があるの。
宇崎　部屋とかに？
阿木　そう、誰かが入って“お宅”になってしまうともう見られないけれども、オープンルームだとね、大丈夫でしょ。間取りとかもわかるし。
宇崎　好きだよねー。
阿木　まあ、これから小説の連載を始めさせていただくのですが、とても主人は協力的でね（微笑）
宇崎　話題をそらさないの！（照れながら）それに何、その“主人”というのは（笑）？
阿木　普段は修史さんでしたっけ（笑）？
宇崎　そうでしょー。オレは広子さんと呼んでるでしょ！　昔は福田さん（阿木の旧姓）と木村君だったれどね。
阿木　そうだったかしら？
宇崎　それが長いことあったんだよ。結婚したら二人とも木村だから、お互いの名前に変わったんだよね。

お腹ペコペコだった初デート

阿木　でも、猫を飼ってからは猫中心の生活で『パパ』と『ママ』になったのね。
宇崎　学生時代といえば、オレの同級生があなたを軽音楽クラブに勧誘して、部室に連れて行くときが、初めての出会いだったね。
阿木　そうね。入学してすぐだった。
宇崎　4年制の女子で軽音楽クラブに入ったのはあなたともう一人だけ。だから、何が何でも注目を浴びちゃう存在だった。部室にあなたが入ってくるだけで、何か明るくなったからね。オレなんか6年間トランペツトばっかり吹いていて、文科系なのに坊主頭で見た目だけ体育系（笑）、女の子と付き合ったこともなく、女性に対しての免疫がなかった。
阿木　私も中学、高校からミッション系の女子校出身ですから、男性への免疫がない子で、お互いそうだったわよね。
　その二人が入学して二日目に出会っていたから、本当に運命的なものを感じている。
宇崎　お互い異性に対して無垢だったと思うよね。部の規律もあって、部員同士の交際も禁止だったし、最初の一年間は同級生としか見ていなかったと思うよ、お互いに。
阿木　集団の中で、音楽を通してお互いの理解を深め合っていったのも今から思えば良かったと思うのね。で、ある日気が付いたら、結婚していて作詞家と作曲家になっていたという、幸せな出会いだったと思う。
宇崎　そうだね。とても自然だった。オレは、あなたに会った頃からずっと、結婚を意識していた。　そうそう、最初にデートに誘ったとき、あなたはクラブ活動の一環だと思ってたんだよね（笑）。だから誰もこないから不思議がっていた。
阿木　そう思ってた（笑）。お腹がすいているのに、修史さんはちっともご飯に誘ってくれなくて、気の利かない人だなって（笑）。私ってお腹がすくと機嫌が悪くなるんです。お腹がペコペコなのに、ずっと喋っていて（笑）。
宇崎　だって、学生でお金もないしさ、代々木公園かなんかのベンチでずっと喋っていた（笑）。今思えば、「いいかげんにしろよ！」だよ。気が利かない野郎だと思うよね。
阿木　そうよ（笑）。
宇崎　でも、2回目のデートの時に、あなたの高校の文化祭に誘ってくれたんだよね。
阿木　あったわね。
宇崎　もう、女の子にデートに誘ってもらえるなんて、18年間のうちで初めてだから嬉しかったなぁ！
阿木　あら初めて聞いた（笑）。
宇崎　もう、文化祭なんて何も覚えていない。顔しかみてなかった。その時、ああ結婚するなって思っていたからね。
阿木　私はあまりピンときてなかったのね。
宇崎　全然ピンとこないよ！　何となく遠まわしにね、タイプじゃないということを言われるわけ。
阿木　ウフフッ！
宇崎　俺の方は当時、まったく勘が鈍いから、今から思えば分かるけれどもね。「私はトレンチコートを着たがっちり型が好き」とかね、色々なことを言う。「ふざけるな！」ですよ。当時の俺なんかガリガリで表六玉ですからね（笑）。阿木　そんなことないわよ（笑）。でも、私の家族には本当に好かれて、1回目から母に我が子のように可愛がってもらってね。最初からファンになってくれた。父や母が「早く修史さんと結婚しなさい」って言ってくれたくらいだったものね。それは、ずっと言っていた。
宇崎　春くらいになると、何か心が時めくじゃない。だから「そろそろ結婚しようか」って言うと、「なかなか準備もあるから秋くらいにしましょう」って言われて、秋になって、「もうそろそろ……」と言うと、「春にしましょう」って言われて。だから俺は18からずっと言いつづけて、25歳でやっと結婚したから、7年間、毎年言い続けていたんだからね。

お金も立場も何もなかった新婚時代

阿木　毎年言っていた（笑）。でも、結婚したくないというよりは、結婚する理由が見つからなかったのかもしれない。
宇崎　よく考えたら、確かにそうかもしれない。オレも家庭を作りたいという気はなくて、ただ「この人と一緒にいたいな」とかいう気持ちだった。
阿木　結婚式も本当にシンプルで、教会の集会室でアマンド（東京・六本木の喫茶店）からケータリングしてもらって、学生時代のバンドをバックにダンスパーティーをさせてもらってね。
宇崎　そうだったね。
阿木　でも、ゼロからのスタートで良かったなって思う。今は相手を条件で選択して結婚する人がいるけれども、最初から玉の輿でもなければ、何物でもない二人だったわね。
宇崎　お金も持ってなかったな（笑）。
阿木　お金もないし、立場もないし（笑）。で、そこから始められたことが最高に幸せなことだったね。でも、本当にお陰様というか、ずっと笑って生きてこられた。
宇崎　笑って？
阿木　本当に明るいオーラがあって、何かエネルギー貰って、明るさを貰って笑って生きてこられた。でも、一般的な夫婦って、もっとシリアスなことっていっぱいあるように思うんですけどね。

小説の登場人物、モデルは

宇崎　それはあるって。だって、僕は給料をそのまま渡してそれだけで暮らせているとのん気に思っていたからね。今から思うと、全然暮らせてないわけ（笑）。
阿木　あの当時でいくらくらい？
宇崎　3三万円くらい。今でいえば、10万円くらいだったからね。それで、補ってもらっているとは思っていないわけ。
阿木　私はモデルの仕事をしていたから、まあギャラもよかったから、そういう意味では私は案外、生活力があって（笑）。
宇崎　そういう意味では、新婚当初は結構あなたに支えられていたんだよね。
阿木　でも、そういう生活は苦にはならなかった。逆に安定した生活は苦痛で、小さい頃からサラリーマンの人とは絶対に結婚すまいと決めていたから、半年くらい収入がなくても平気で耐えられるんですね。だから、修史さんが芸能界へ入って、ある種浮草家業に入ることも全然反対じゃなかったのね。
宇崎　ところで、さっきの質問の答えがまだないんだけど。
阿木　何かしら？
宇崎　どういうところで、観察しているか！
阿木　だから日常の……
宇崎　でも、あなたの日常とは全然違うじゃない、今回のテーマは。女の人がナンパされたがったり、逆ナンパしてみたり、そしてうまくいくかな、この男とというような話しでしょ。
阿木　今の時代なら、こういうことも別に不道徳じゃないし、昔なら違うでしょうけど、わりと女の人の本音かなっていうところをテーマに書きたかったんだけれども。
宇崎　なるほどね。でも、それは具体的に誰かモデルがいるわけ？
阿木　特定の人はいない。
宇崎　すると。誰々のことをインプットして、後はさまざまなものと自分のイマジネーションで書くというね。
阿木　そうそう。
宇崎　それは、作詞家の仕事のときも兆しはあったね。
阿木　そうね。物語を作るのが基本的に好きなのだと思う。宇崎　あなたは面白いのは作詞家を望んで作詞家を始めたわけではなかったものね。
阿木　そうねー。
宇崎　望んでなかった。これは、学生時代から同じ軽音楽クラブで書いてもらっていたことから、自然にバンドを作ることによって「港のヨーコ――」が出てきちゃったんだよね。
阿木　そうよね。やっぱり修史さんと結婚しなかったら、作詞家には絶対になってなかったと思うし、自分の選択肢の中に、作詞家になりたいとか、なれるとか、なろうとか一度もなかったのに、なってしまったというね。
宇崎　それは、不思議なものだなって思う。あの当時って、サラリーマンになって、女性ならＯＬになって、というのが当たり前だったじゃない。それが、作詞家になったお陰で女優にもなったしね。
阿木　出会いの不思議さだなって思うし、今でも何で私がレコーディングスタジオにいるのかなって、違和感のようなものを感じることってある。
私の場合は『木村広子』でいる時間の方が一日の中で長いので、違和感ってある。

普段、阿木燿子はどこにいるの？

宇崎　オレは『宇崎竜童』になったことがあったよね。ダウン・タウンで売れて、我を忘れて家に帰ってもサングラスしていたことあった（笑）。
阿木　そうそう（笑）。
宇崎　「何してるんですか？」なんて言われたりしてね（笑）。でも、あなたは阿木燿子であるよりも、どこにいっても木村広子なんだよね。でも、活字における阿木燿子は歴然といる。でも、普段の日常には阿木燿子はあまりいない。
阿木　そうだね。
宇崎　オレなんか、こういう（阿木さんを見て）姿を見ると、やっぱり阿木燿子さんって思うんですけどね（笑）。こういう姿の時間ってすごく少ないから（笑）。木村広子さんは普段こんなファッションをしていませんよ（笑）。
阿木　家ではお化粧もしないでね（笑）。
宇崎　机に向かっているかね。
阿木　机に向かっている時は何ともいえないわよね。阿木燿子の仕事をしているんだけれども、なりふり構わずにね。
宇崎　あのね、表側は阿木燿子じゃないの。中側だけが阿木燿子で、その中側が手を動かしているんだよね。
　しかし、最後にああいう“落ち”がつくとは想像しなかったね。
阿木　あれは予測がついた？
宇崎　まったく、つくわけがないじゃん！
阿木　4話完結の8作の連作にしようかなって思っているのね。毎回のセックス描写にしても、人間の根源的なものだから、私って別に抵抗も照れもないの。
宇崎　きっと人間というものを知っているんですよ、あなたはね。
阿木　私たちの夫婦関係というのは、何か肉体を超えた縁というものを感じるのね。肉体を超えた魂の部分のご縁は、二人で仕事をせよとずっと云われ続けてきたように思う。
宇崎　だから、やっとこの年でスタート地点かなってお互い感じてるところってあるね。
阿木　自分たちのペースを大事にしつつ、夫婦でありながら、夫婦でない瞬間もあって、色んな意味でパートナーという関係ですよね。いかがですか？
宇崎　あるときはパパ、ママでね。猫ちゃんたちの（笑）。
阿木　まあ、嫁に貰って戴いて感謝していますわ。
宇崎　8年間粘った甲斐があったかな（笑）。
阿木　これからも、末永くよろしくお願いします。（笑）。
宇崎　こちらこそ（笑）。